出版の企画が決まり、いよいよ目次を作ろうとしたところで手が止まる。章はいくつに分ければいいのか、どの順番で並べれば読者は迷わずついてくるのか。テーマは決まっているのに、見出しを並べ始めると似た章が増えたり、逆に足りない気がしたりして、どこまで詰めれば書き始めてよいのか分からなくなる。初めての目次づくりで迷いやすいのは、この章の数と順番です。
この記事では、その迷いを順番に片づけます。まず本全体で解く悩みを一つに絞り、次に読者がつまずく順番で章を並べ、各章に役割と成果を一つずつ置き、続いて節と見出しの粒度をそろえ、最後に書き始める前に目次を人に見せます。読み終わるころには、章の数を勘で決めるのではなく、なぜその並びなのかを自分の言葉で説明できる目次のたたき台が手元に残ります。
章を増やす前に、本全体で解く悩みを一つに決める
読む前と読んだ後の変化を書く
目次を作るとき、最初に手を付けたくなるのは章の見出しです。けれども見出しを並べる前に、この本を読む前と読んだ後で読者の何が変わるのかを、一文にしておきます。たとえば「目次をどう作ればよいか分からない人が、自分の本の章立てを人に説明できるようになる」という形です。この一文があると、章を増やすか減らすかを迷ったときの判断基準になります。
一文にまとまらないときは、テーマが大きすぎる兆候かもしれません。読者像を狭める、扱う範囲を狭める、解決する悩みを一つ選ぶ。このどれか一つを動かすと、たいていは一文に収まります。逆に読者の変化がいくつも浮かぶなら、それは章ではなく節の候補です。本文をどの順番で説明するかを決める材料になります。
| 観点 | 読む前 | 読んだ後 |
|---|---|---|
| 目次への見通し | 章の数を勘で決め、似た章が増えてしまう | 各章の役割を自分の言葉で説明できる |
| 悩みの捉え方 | 何から書くか決まらず、書き出せない | 読者がつまずく順番に章を並べられる |
| 判断のよりどころ | 他の本の目次を写して安心しようとする | 自分の本の読者像から判断できる |
扱わないことを決める
悩みを一つに決めると、書かない範囲も決まります。たとえば「初めて目次を作る著者」を読者に置くなら、出版契約の交渉や校正の進め方は本筋から外れます。扱わないと決めた内容はメモに残しておくと、執筆中に見出しを足したくなったときの戻り先になります。
- 読者像から外れる話題(別の職種、別の経験年数の人向けの内容)
- 別の本で扱ったほうが読み手に親切な、独立した大きなテーマ
- 今の段階では確認できない自社の実績や数値
扱わないと決めても、本文で一切触れないとは限りません。必要なら「ここでは詳しく扱わない」と一言添え、参照先を示すだけにします。範囲を狭めた分だけ、各章で書ける内容は濃くなります。
時系列か、悩みの大きさで章を並べる
本全体で解く悩みが一つに決まったら、次は章の順番です。並べ方の基準は大きく二つ。読者が手を動かす時間の流れに沿わせる方法と、悩みの大きさが目立つ順に置く方法です。どちらを選んだかは、目次の横に一言メモしておくと、執筆中に迷ったときの拠りどころになります。
時系列で並べる場合
読者の行動が時間の順に進むテーマでは、その流れをそのまま章にします。たとえば、企画が決まった人が目次を作り、原稿を書き、人に確認するまでを扱う本なら、目次、原稿、確認の順です。前の章で決めたことを次の章の前提にできるので、同じ説明を繰り返さずに済みます。逆にすると、読者はまだ習っていない言葉で説明されることになります。
弱点は、読者がいつも最初の章から読むとは限らないことです。いま原稿の段階にいる人が、目次の章を飛ばして開くこともあります。各章の冒頭に、前の章で決めたことを一文だけ置いておくと、途中から読んでも迷いません。
課題の大きさで並べる場合
悩みが並行していて時間の順に並べにくいときは、読者が最も手を止める所を先に置きます。たとえば「章の数が決まらない」「順番が決まらない」「見出しの言葉がそろわない」という三つの悩みなら、前の二つを先にします。三つ目は、章の並びが決まってからでないと実感しにくいからです。
大きさの判断は著者の感覚になりがちです。読者像を思い浮かべ、その人が書き始めた日にどこで手を止めるかを順に想像します。順番を入れ替えた案も一つ作り、並べてから選ぶと後戻りが減ります。
| 並べ方 | 向くテーマ | 読者が迷いやすい点 |
|---|---|---|
| 時系列 | 企画から確認まで、手順が決まっているテーマ | 途中の章から読むと、前提が分からない |
| 課題の大きさ | 複数の悩みが並行するテーマ | 著者の感覚のまま順番を決めてしまう |
並べ終えたら、各章が前の章から何を受け取るのかを一行で書き添えます。受け取るものが無い章は、順番を変えるか、統合する候補です。
各章に、一つの役割と一つの成果を置く
章の数と順番が決まったら、次は各章の中身を確かめます。ここで見るのは文章のうまさではなく、その章が一つの役割と一つの成果を持っているかどうかです。役割が二つ以上ある章は、読者がどこで何を得たのか分からなくなり、次の章へ進む理由も弱くなります。目次を書き足す前に、一章ずつ「何のためにある章か」を一文で言える状態を目指します。
章の最初と最後に書くこと
章の冒頭では、この章で扱うことを一文で示し、前の章から引き継いだ前提を短く添えます。最後では、読者が何を決められたかを振り返り、次の章でその決めたことをどう使うのかをつなぎます。最初と最後を先に書いておくと、本文を書いている途中で話がそれたときに戻る場所ができます。逆に、最初と最後がうまく書けない章は、役割がまだ一つに絞れていない可能性があります。
章をまたぐ説明をどこに置くか
同じ説明が複数の章に出てくると、目次を読んだだけでは各章の違いが分かりにくくなります。用語の定義や共通の前提は、最初に必要になる章へまとめ、後の章では前の章で触れたと短く参照するだけにします。どちらの章にも収まりが悪い内容は、章を分けるか、付録へ移す合図です。次の箇条書きは、実際の本を分析した結果ではなく、目次を見直すときの確認例です。
- その章の役割を、一文で言えるか
- 節が増えすぎて、二つの話が混ざっていないか
- 隣の章と同じ説明を繰り返していないか
| 章 | 役割 | 読者が得るもの | 次の章へ渡すもの |
|---|---|---|---|
| 第1章(例) | 本全体で解く悩みを一つに決める | 自分の本が読者に何を変えるかを一文で言える | 決めた悩みを、章を並べる基準として渡す |
| 第2章(例) | 読者がつまずく順に章を並べる | 目次の順番を自分の言葉で説明できる | 決めた並びを、各章の役割を確かめる材料として渡す |
| 第3章(例) | 各章に役割と成果を一つずつ置く | 章ごとの役割と重複を自分で点検できる | 整えた目次を、見出しの粒度をそろえる作業へ渡す |
シートを埋めると、役割が空欄の章や、成果が前の章と同じ章が見つかります。埋まらない欄は、その章を削るか、別の章と統合する候補です。すべての欄が埋まったら、章の数が多くても少なくても、目次全体の見通しはこの時点でそろっています。
- 章の役割を一文で書く
- 読者が持ち帰る成果を書く
- 次の章へ渡すものを書く
- 節の重複を確かめて直す
節と見出しの粒度をそろえる
章の数と順番が決まったら、目次全体を声に出して読みます。目で追うだけでは気づかない引っかかりが残るからです。「何を言っているのか分からない」「前の節と同じではないか」と感じたところが、直す候補になります。
目次を声に出して読む
読みながら、次の点を確かめます。見出しの長さが節ごとに極端に違わないか、同じ言葉で始まる見出しが続いていないか、見出しだけを並べて章の流れを説明できるか、の三つです。
- 見出しの長さが、節ごとに極端に違わないか
- 同じ言葉で始まる見出しが、続けて並んでいないか
- 見出しだけを拾って、章の流れを説明できるか
引っかかった見出しは、その場で直さず、いったん書き出します。読む作業と直す作業を同時に進めると、声に出して読む速さが落ち、全体の流れを見失うためです。書き出したあとに、章ごとにまとめて手を入れます。
見出しの動詞を確認する
粒度がそろわない原因の一つは、動詞の有無です。「章の並びの考え方」のような名詞止めと、「読者がつまずく順に章を並べる」のような動詞のある見出しが混ざると、読み手は前者を話題、後者を作業として受け取ります。節で読者に何をしてほしいのかを決め、動詞をそろえます。ただし、用語の定義など、読者に作業を求めない節は名詞のままで構いません。
| 直す前の見出し(例) | 目次で気づくこと | 直した見出し(例) |
|---|---|---|
| 目次について | 何を扱う節か、目次だけでは分からない | 目次を読み、章の順番を確かめる |
| 章の並びの考え方 | 名詞で終わり、読者が何をするか見えない | 読者がつまずく順に章を並べる |
| 見出しを検討する | 「検討する」だけでは、何をするか決まらない | 見出しの動詞をそろえる |
| 目次を声に出して読み、引っかかった見出しを三つまで書き出す | 長く、目次で一目に読みにくい | 目次を声に出して読む |
表の見出しは、説明のために作った例です。直した見出しが長くなったら、細かい条件は本文へ移します。見出しは目次で内容を思い出すための手がかりであり、本文の要約をすべて背負う必要はありません。
直したあとは、もう一度声に出して読みます。隣の章と同じ動詞が並びすぎているときは、見出しをいじる前に、章の役割に戻って確かめます。
書き始める前に、目次を人に見せる
目次ができたら、書き始める前に人に見てもらいます。ただし「どう思いますか」とだけ渡すと、「分かりやすいと思います」という感想が返ってきて、どこを直せばよいか分かりません。見てほしい点を先に絞り、指摘が来たときに採否を決められる状態にしておきます。
確認してほしい観点を絞る
観点は三つほどに絞ります。本全体で解く悩みが一文で伝わるか。章の順番が読者のつまずく順になっているか。章の役割が隣の章と重なっていないか。この三つは、前の章までに自分で確かめてきたことです。同じ観点で見てもらうと、感想ではなく直す場所として指摘が返ってきます。
- 編集者には、章の順番と役割の重なりを見てほしいと伝える
- 読者候補には、自分の状況に当てはまるか、どこで読むのをやめそうかを聞く
- 書き慣れた人には、目次だけで本の内容が伝わるかを見てもらう
目次と一緒に、想定している読者と、本全体で解く悩みの一文も添えます。これがないと、相手は自分の好みや経験で判断してしまい、指摘が本の外側へそれます。
目次の変更を記録する
返ってきた指摘は、すべて取り入れる必要はありません。採用したものも見送ったものも、理由を一言残します。理由がうまく言えない指摘は、目次か読者像のどちらかがまだ曖昧だという合図です。
| 指摘された内容 | 採否 | 理由 | 直した場所 |
|---|---|---|---|
| 第2章と第3章の順番が逆ではないか | 採用 | 読者が先に章の順番を決める流れにしたい | 第2章と第3章を入れ替えた |
| 第4章の見出しが長い | 採用 | 目次で一目に読めない | 見出しを短くし、条件は本文へ移した |
| 付録を一つ足したらどうか | 見送り | 今回の読者像から外れる | 扱わないことのメモに残した |
- 観点を三つ決める
- 読者像と悩みの一文を添えて渡す
- 指摘を受ける
- 採否と理由を記録する
- 目次を直す
- 同じ観点で再確認する
再確認では、直した箇所だけでなく、章の順番や役割に影響が出ていないかを見ます。一つの章を削ると、前の章が渡すはずだった前提も変わります。目次は書き始めてからも戻ってくる地図なので、変更の記録ごと残しておくと、執筆中に迷ったときの拠りどころになります。




