書籍の出版が決まった直後は、目次を眺めているだけで原稿が進んだ気になりやすいものです。しかし実際に書き始めると、本業の合間にまとまった時間を確保できる日は限られ、どの章から手を付けるか、どこまで書けば一章として区切れるかで手が止まりがちです。締切は著者の都合に合わせて動いてはくれません。

この記事では、目次ができた時点で章ごとの作業量を仮に見積もる考え方から、締切までの期間を執筆・確認・修正に分けて余白を先に取る進め方、目次と違う順番で書く判断、見出し単位で一章を書き切る手順、途中の判断を記録に残す方法までを順に扱います。会社として初めて本を出す著者と担当者が、自社の体制や編集者との進め方に合わせて計画を組み立てるための材料として読んでください。

書き始める前に、一章の重さを測る

目次ができたら、原稿を書き始める前に、章ごとの重さを一度測っておきます。ここでいう重さとは、文字数だけではありません。取材や社内確認、図表の準備まで含めて、どの章にどれだけ手間がかかりそうかを見積もる作業です。目次は構成の設計図ですが、作業量の設計図にはなっていません。書き始める前に偏りを知っておくと、その後の予定の立て方が変わります。

目次から、章ごとの分量を仮に置く

まず、目次の各章に想定字数を仮に置きます。本文全体の字数を章数で割るのではなく、節の数や扱う内容の重さで配分します。たとえば、事例を3つ紹介する章と、考え方だけを説明する章では、必要な字数も準備の量も違います。ここで置く数字は確定値ではなく、偏りに気づくための目安です。書き進めて足りなければ、その時点で調整すれば構いません。

取材と執筆を分けて数える

一章を書き切るまでの作業は、いくつかに分かれます。社内外への取材と素材の確認、構成に沿った執筆、図表の用意、読み直しと修正です。これらをまとめて「一章書く」と捉えると、どこで止まりやすいのかが見えません。分けて数えておくと、取材待ちの章と、すぐ書き始められる章を区別できます。次の表は、作業量を並べる項目の例です。数字は説明のための架空の例で、実在の書籍の見積もりではありません。

作業量の一覧表(架空の例)
章想定字数取材・確認執筆図表の準備負担の目安
第1章 考え方の整理6,000字社内ヒアリング1回3日なし軽い。早めに着手できる
第2章 事例紹介8,000字取材3件、掲載許諾の確認5日写真2点、年表1点重い。許諾待ちで止まりやすい
第3章 実務の手順7,000字現場への確認2回4日手順図1点中程度。図の確定が後半に残る
第4章 まとめ4,000字なし2日なし軽い。全体の確定後に書く

表にしてみると、字数が多い章がいつも重いとは限らないと分かります。取材の調整や社内確認が入る章は、執筆の日数が短くても、着手から完成までの期間は長くなります。重い章が見えたら、その章の準備だけ先に始める、締切までの余白を厚めに取るといった判断ができます。次の章では、その余白を締切から逆算して確保する方法を扱います。

締切から逆算して、余白を先に取る

締切から逆算すると言うと、締切までの日数を執筆に割り振る作業を思い浮かべます。ただ、書く日だけを数えて予定を埋めると、読み直しや社内確認が最後にまとめて残り、そこで手が止まります。先に確保するのは、書く時間ではなく、確認と修正の時間です。

確認と修正の時間を別枠にする

原稿は、書き上げた時点ではまだ人に渡せません。読み直して事実関係を確かめ、表現を整え、必要なら図表を差し替えて、初めて初稿になります。この作業を余った時間でやると決めると、遅れがそのまま締切に重なります。締切から逆算するときは、確認と修正の期間を先にカレンダーへ置き、残った日を執筆に充てます。次の流れは、期間の分け方の例です。

執筆・確認・修正を分けた日程の例(架空の例。実際の期間は原稿の量と確認の相手で変わる)
  1. 締切6週前:章ごとの材料をそろえ、書き始める
  2. 締切4週前:全章の本文を書き終える
  3. 締切3週前:編集者と社内の確認をまとめて受ける
  4. 締切2週前:指摘を反映して修正する
  5. 締切1週前:最終確認と差し替えの反映

本文を書き終える日を締切の手前に置くと、確認で返ってきた指摘を直す日が残ります。反対に、執筆の予定を締切まで引き伸ばすと、確認の期間はどこにも残りません。

会社の確認が必要な章を先に決める

確認に時間がかかる章は、書き終えてから気づくのでは遅すぎます。目次を見ながら、どの章で誰の確認が要るかを先に書き出しておきます。次の箇条書きは、確認が発生しやすい章の種類を示すための架空の例です。

  • お客様の事例を扱う章:掲載の許諾と事実関係の確認を、早い段階で依頼する
  • 製品や仕様を説明する章:最新の仕様と表現の可否を、所管する部門に確かめる
  • 金額や契約に触れる章:数字の扱いと、公表してよい範囲を確認する
  • 組織や体制の変遷を扱う章:在籍や役職の表記を、当事者に確認する

確認待ちの章がある間は、その章を止めたまま待つのではなく、確認の要らない章を進めます。どの章を先に書くかは、締切の近さではなく、材料と確認の状況で決まります。次の章では、その順番の決め方を扱います。

章を書く順番は、目次の順番と一致しなくていい

目次は読者のための順番で、書く側の作業順とは限りません。第1章から順に書こうとすると、材料がそろっていない章で止まり、そのまま別の章にも移りにくくなります。書き始めるときは、目次の順番を守らなくてよいと考えます。

書きやすい章から書き始める

最初に選ぶのは、内容が軽い章ではなく、材料が手元にそろっている章です。取材が済んでいる、社内確認が要らない、図表がなくても説明できる。こうした章は書き出しの負担が小さく、一章を書き切る感覚をつかむのに向いています。次の図は、順番がずれる例です(架空の例)。

目次は第1章から第4章の順でも、実際は材料のそろった章から書く(架空の例)
  1. 第3章 実務の手順を書く(材料がそろっている)
  2. 第1章 考え方の整理に戻る(前提を整える)
  3. 第2章 事例紹介を書く(許諾が下りた分から)
  4. 第4章 まとめを最後に書く

入れ替えると、後の章の前提を先に決められる利点もあります。手順の章を先に書けば、考え方の章で説明する範囲が見えます。ただし、変えた順番と理由は、その都度メモに残します。

導入は最後に書く

導入は全体を書き終えてから書きます。書き始めの時点では、どの章で何を言い切るかが決まっていません。先に書くと内容が変わり、書き直しが増えます。各章がそろってから読み返すと、最初に伝える問いと着地点が見えます。

全体像が変わる章の扱い

書いている途中で、章を足したくなる、削りたくなることがあります。判断を先延ばしにすると、他の章への影響が広がります。

章を足す・削る判断をどこでするか

判断するのは、全体の半分ほどを書き終えた時点が目安です。その時点なら、各章で実際に扱った内容が見えています。足す場合は、既存の章で説明しきれない問いが残っているかを確かめます。削る場合は、その章を読まないと次の章が理解できないかを確かめます。決めたら同じ日に、影響する章の見出しと分量も更新します。

一章を書き切る単位に分ける

章を書き切ろうとして、冒頭から最後までを一度に書こうとすると、途中で手が止まりやすくなります。一章は、見出しごとに材料をそろえて書き切る単位に分けると、進み具合が見え、止まった場所も特定できます。

見出しごとに材料をそろえる

書き始める前に、見出しごとに四つの点を短く書き出します。何を伝えるか、その根拠はどこにあるか、読者に思い浮かべてもらう例は何か、図表が必要かどうかです。材料がそろっていない見出しは、文章を書きながら探すのではなく、先に集める対象として印を付けます。

  • 伝える結論を一文で書く
  • 根拠となる資料や確認先を添える
  • 例を出す場合は、例だと分かる形で書く
  • 図表が要る見出しには、何を示す図かをメモする

書けない章は構成に戻す

それでも文章が進まないときは、気力の問題と決めつけず、構成に戻ります。見出しが大きすぎる、前後の章と役割が重なっている、材料が足りない。原因はこの三つのどれかであることが多く、見出しを分ける、扱う範囲を狭める、材料を集め直すのいずれかで解消できます。戻った理由は章の外に残しておきます。

一章を書き切るまでの手順の例
  1. 材料をそろえる
  2. 見出しを書く
  3. 読み直して確かめる
  4. 確認に出す

見出しを一つ書き終えるたびに、読み直して事実と表現を確かめます。一章分がそろってから、章としてつながるかを見ます。この単位なら、本業の合間に短い時間しか取れない日でも、どこまで進んだかを自分で把握できます。

途中で止まらないための記録の残し方

章を書き進めていると、「この章では事例を二つに絞る」「この表現は社内確認の後に決める」といった判断が、その場で生まれます。こうした判断を頭の中だけに置いておくと、数日後に同じ章へ戻ったとき、なぜその形にしたのかを思い出せません。記録は報告のためではなく、未来の自分が同じ場所で迷わないために残します。

決めたことを章の外に残す

記録する場所は、本文の外に決めます。本文に検討の跡を書き込んだまま進めると、読者に不要な迷いが残り、消す作業も増えます。章ごとに一つのメモを用意し、日付と一行の理由を添えておくだけでも、後から経緯をたどれます。

  • 変えた構成と、変えた理由
  • 保留にした箇所と、判断を待っている相手
  • 章を書く順番を入れ替えた日と、その理由
  • 確認が必要な表現と、確認先
共有メモに残す項目の例(架空の例。実際の項目は社内の進め方に合わせて選ぶ)
項目残す内容の例参照する場面
構成の変更「第3章の手順を二つに分け、前半を第2章へ移す」目次を更新するとき
保留中の判断「価格の表現は掲載可否の回答待ち」確認の回答が届いたとき
執筆の順番「第4章より先に第3章を書いた」進み具合を説明するとき
表現の確認「取引先名の表記を広報に確認中」初稿を提出する前

編集者へ共有するタイミング

共有は、章が完成してからまとめて行うのではなく、判断が確定した時点で短く知らせる方が、後の修正は小さく済みます。構成を変えたとき、掲載の許諾が必要な素材を使うとき、公開してよい範囲が決まっていない表現を残したときは、本文の完成を待たずに伝えます。

共有の区切り方の例
  1. 材料がそろった時点:扱う範囲と確認先を伝える
  2. 章を書き終えた時点:本文と保留箇所を渡す
  3. 回答を受けた時点:反映した箇所と変えた表現を返す
  4. 全章がそろった時点:記録を見直し、未決を一覧にする

記録と共有を分けておくと、執筆が止まった理由が「確認待ち」なのか「判断待ち」なのかも見分けられます。原因が見えれば、待つ間に別の章を進める判断ができます。書き始める前にメモの項目を決めておけば、章ごとの記録の形がそろい、編集者とのやり取りも同じ単位で続けられます。