初校のPDFが届くと、本文の画面に、編集者が入れた赤字やコメントが重なって見えます。誤字を見つけるたびに直し、説明の足りない箇所にも手を入れ、図表の番号や目次も気になって、気づけば一日が終わっていた、という進み方になりがちです。ただ、この読み方では細部だけが先に整い、章と章のつながりや主張の流れは最後まで見えないままになります。読み終えてから「この章の順番では伝わらない」と気づくと、直した箇所をさらに直すことになります。

この記事では、初校を返すまでの作業を、確かめる、通読する、指摘を整理する、赤字を記入する、という順番に分けて扱います。まず期限と対象範囲を確認し、次に全体を通して読んで事実と論理を見ます。そのうえで指摘を種類ごとに分けて書き、図表と目次は本文とは別の機会に照合します。読みながら直すのではなく、読む時間と直す時間を分けることが、編集者に意図の伝わる赤字を返す近道です。なお、何をどこまで直してよいか、返す期限と方法は案件ごとに異なるため、届いた依頼文の指示を優先してください。

作業の前に、期限と範囲を確かめる

初校のPDFを開く前に、届いた依頼文と添付の指示を読みます。どこまで直してよいのか、いつまでに返すのかを決めないまま読み始めると、後から「この変更は相談が必要だった」と分かり、直した箇所をやり直すことになります。読み始める前の確認は、その後の判断をぶれにくくします。

本文・図表・目次、どこまでが対象か

対象は本文だけとは限りません。図表の番号やキャプション、目次、章扉、奥付の表記まで確認を求められることがあります。依頼文に「本文のみ」「図表を含む」とあればそれに従い、記載がなければ、対象かどうか曖昧な箇所を編集者にまとめて確認します。

直してよい範囲と、相談が必要な変更

誤字脱字や表記の揺れは、そのまま赤字で直せることが多い項目です。一方、事実に関わる修正や、意味が変わる書き換え、章をまたぐ移動は、著者の判断だけで進めると後の工程に影響します。迷う変更は手を入れる前に「相談」として分けておきます。

内容の追加と差し替え

説明を足したい、事例を差し替えたいと考えたときは、場所と分量を添えて相談します。初校から行数が増えると組版が変わり、図表の位置やページ数にも影響するためです。「この段落の後に2行追加したい」のように、対象と量を示すと話が進めやすくなります。

章の構成に関わる変更

見出しの順番を入れ替える、章を分ける、節を統合するといった変更は、目次、本文、図表番号のすべてに関わります。思いついた時点で赤字を入れるのではなく、理由と影響する範囲を整理して編集者に先に相談します。

返す期限と方法を確認する

期限は「返送日」なのか「編集部に届く日」なのかで、残せる時間が変わります。郵送かデータで返すのか、PDFに注記するのか別紙に一覧を作るのかも、最初に決めておくと迷いません。確認だけを先に送る日を決めておくと、疑問を抱えたまま読み進めずに済みます。

作業前に確認する項目の例(依頼文に合わせて置き換える)
区分確認すること記入例
範囲本文のほかに、図表・目次・奥付まで含むか「本文と図表まで。目次は編集部で更新」など、依頼文の記載をそのまま写す
範囲直してよい変更と、事前に相談する変更の線引き「表記の統一は可。事実の修正と章の移動は相談」と最初にメモする
期限返送日と、編集部に届いている必要がある日「20日必着。PDFは前日に送る」のように、日付を一つに決める
方法返す形式と、注記の入れ方「PDFに注記、別紙に一覧」など、指定された形式を確認する
連絡先不明点を聞く相手と、急ぎのときの連絡方法担当者名と連絡手段を依頼文から写し、質問はまとめて送る

まず通読して、全体を見る

初校のPDFが届くと、目に入った誤字から直したくなります。ただ、誤字は後からでも直せます。最初の通読は、直すためではなく、どこを直すかを決めるために読みます。読みながら手を動かすと、行の内側に意識が向き、章として何を伝えているかが後回しになります。

誤字より先に、事実と論理を見る

通読では、事実と論理の二点に絞ります。事実は、数字、固有名詞、引用の範囲、断定の強さを確かめる対象です。論理は、前の段落を受けて次の段落が進んでいるか、途中で結論が入れ替わっていないかを見ます。読んでいて引っかかったら、その場で直さず、どこが引っかかったかを一言だけ残します。直す判断は、全体を読み終えてからで間に合います。

章のつながりを確認する

章ごとに読むと、どの章もまとまって見えます。しかし、前の章で説明した用語が次の章では別の意味で使われていたり、同じ結論を二度書いていたりすることがあります。前章の最後の段落と今回の章の冒頭を並べ、何を受けて何を足すのかを確かめます。節の順番を入れ替えたほうが読みやすいと感じても、この段階では動かさず、提案として残します。

気になった箇所は付箋に留める

通読中に手を止めて直すと、全体の流れを見失います。気になった箇所は、ページ番号と短い言葉だけを付箋やメモに残し、読み終えてから見返します。直したい理由を一言添えておくと、後の整理で迷いません。付箋が同じ章に何枚も集まったときは、言葉の問題ではなく、説明が足りていない可能性があります。その場合は、赤字を入れる前に、何を補うかを考えます。

初校を返すまでの流れ(この章は最初の通読)
  1. 1. 通読する:事実と論理、章のつながりを見る
  2. 2. 指摘を整理する:種類と理由を分けて書き出す
  3. 3. 赤字を記入する:整理した順にPDFへ入れる

指摘の種類を分けて書く

赤字を入れるとき、直す内容と理由が混ざっていると、編集者はどこまで受け取ってよいか迷います。指摘は、誤り、表記の統一、読みやすさ、内容の確認の四つに分けて書きます。前の二つは直す根拠を示し、後の二つは提案として書き、断定を避けます。

誤り・表記の統一・読みやすさ・内容の確認

種類によって、編集者が確かめることも変わります。誤りは直せば済みますが、読みやすさの指摘は著者の意図を確かめる必要があります。一つのコメントに何種類も詰め込むと、どこから手を付けるか分からなくなるため、指摘ごとに分けます。

表記の統一で見る場所

同じ語の送り仮名、数字の全角と半角、句読点、固有名詞の書き方を並べます。初出と二回目以降で表記が変わっていないか、本文だけでなく図表のキャプション、目次、注も同じかを見ます。社内の用語集や既刊の表記があれば、それを基準にします。

読みやすさの指摘の書き方

「読みにくい」だけでは直しようがありません。どこで詰まったか、どう読めたかを添えます。たとえば「この段落は途中で主語が変わり、誰の行動か分かりにくい」と書き、直し案を一案だけ添えて、断定はしません。

直すかどうかを迷う箇所

事実に関わる、意味が変わる、分量が増える。この三つは迷いやすいところです。迷ったら赤字で消さず、「相談」として残します。今の文と直す案の両方を書き、どちらを採るかは編集者に委ねます。

編集者に理由を添える

赤字の脇に、理由を一言添えます。「表記を統一するため」「事実と異なるため」「読み手が誤解するため」などです。理由があれば、編集者は似た箇所にも同じ判断を当てられます。長い説明は別紙に回し、赤字には要点だけを残します。

指摘の種類ごとの書き方と、添える情報の例
指摘の種類赤字の書き方の例添える情報
誤りp.42 3行目の「〜」を「〜」に修正正しい表記と、確認した資料の箇所
表記の統一「ウェブ」を「Web」に統一(p.12、p.58も同様)統一する表記と、基準にした用語集や初出の箇所
読みやすさp.58 第2段落、主語が途中で変わり読みにくい引っかかった場所、読み手としての反応、直し案
内容の確認p.73 の記述が、初校前の原稿と食い違う確認したい点と、根拠にした原稿や資料の箇所
迷う箇所p.90 の事例を差し替えたい(相談)今の文と案、分量の変化、判断してほしい点

種類と理由がそろっていると、返した後のやり取りは短くなります。直してよい箇所と、判断を頼む箇所が分かれているためです。

図表と目次は別に確認する

本文を読み終えたら、図表と目次は本文から離して確認します。文章の流れの中では、番号の飛びや参照のずれは気づきにくいものです。本文、図表の番号、キャプション、目次を並べ、同じものを指しているかを照合します。

図表の番号と本文の参照

本文に「図3」「表2」とあれば、その番号の図表が実際にその位置にあるか、順番どおりかを上から追います。図表を差し替えたり削ったりすると、番号が飛んだり重複したりします。本文側の参照も同じ番号に直し、離れた章から参照が残っていないかを見ます。

照合する四つの場所
  1. 本文の「図3」という参照
  2. 図表の番号と置かれた位置
  3. キャプションが指す内容
  4. 目次の見出しと階層

キャプションと本文の説明の食い違い

キャプションは図表の説明ですが、本文の記述と食い違うことがあります。数値、期間、対象、単位が同じかを並べ、本文だけが古い表現のまま残っていないか確かめます。図表の中で使った用語と、本文の用語が揃っているかも見ます。

目次と見出しの一致

目次は、本文の見出しと階層、順番、表記が一致しているかを見ます。節を動かした場合は、目次だけが元の順番で残ることがあります。ページ番号は組版の後に変わるため、番号そのものより、見出しの文言と階層のずれを先に拾います。

図表と目次で見つけたずれは、本文の赤字と混ぜず、場所と直す内容を一覧にまとめて返します。

返した後のやり取り

初校の赤字を返した後、編集者から「この箇所は、どう直したいのか」と確認の連絡が来ることがあります。返した直後の手元には修正の一覧だけが残り、なぜ直したかの説明は抜けています。ここで説明を組み立て直すと、やり取りが長引きます。返送した直後に、判断した理由と確認してほしい点を短く控えておくと、後の返信が落ち着きます。

意図が伝わったか確認する

編集者からの質問には、修正の内容をなぞるより、何を狙った修正だったかを先に伝えます。表記を揃えたいのか、読み手の誤解を避けたいのかで、編集者が確かめる場所は変わります。返信の最後に、判断を委ねた箇所が残っていないかを見ます。

直さなかった箇所の理由を残す

直さずに残した箇所は、理由を一行で残します。「表記は揃えたいが、意味が変わるので残した」「内容の確認を待つ」など、判断の基準が後から分かる形です。理由がないと、再校で同じ箇所を前にして、また迷います。

再校で見る場所をメモしておく

再校が届いたら、赤字が反映されたかだけでなく、修正の影響で前後の文や図表の番号が変わっていないかを見ます。初校で迷ったページ、章のつなぎ目、図表と目次の参照をメモし、そこから確認します。見た日付と結果も添えておくと、次のやり取りで思い出しやすくなります。