自社の専門知識や長年の経験を本にしたい。そう考えて企画書を前にすると、つい会社紹介や実績の列挙から書き始めてしまいがちです。ただ、企画書でまず伝えたいのは、その本が誰のどんな困りごとを解くのかという点です。著者の想いと読者の課題を分け、読者が本を手に取る場面を一文で置くところから始めます。

読者像は、年齢や役職の列挙で終わらせず、どんな場面でこの本を手に取るかまで具体的にします。続いて目次案を並べ、章ごとに読者の疑問を一つ置きながら、内容の重複と不足を確かめます。著者にしか書けない理由は肩書きではなく、これまでどんな判断をしてきたかで示します。商業出版と自費出版では企画の通り方や費用、流通の前提が異なるため、提案先に合わせて確認する項目も変えておきましょう。

企画書は、本の説明より読者の課題から始める

企画書を書き始めると、会社の強みやこれまでの仕事を並べたくなります。編集者が最初に知りたいのは、その本を手に取る人がどの場面で何に困っているかです。会社の説明は、読者の課題を先に置いた後へ回します。

著者の想いと読者の課題を分ける

著者の想いとは、長年培った方法を届けたい、誤解を解きたいといった願いです。読者の課題は、その願いが役立つ状況を指します。一枚の紙に「読者」「困りごと」「読み終えた後にできること」を書き、その下へ「伝えたいこと」「著者だから示せる視点」を続けます。両方に同じ言葉が並んだら、まだ読者の側まで降りられていないと考えます。

たとえば、次のような書き方です(架空の例)。

  • 読者:問い合わせ対応が特定の社員に集中する中小企業の経営者
  • 困りごと:休みの日に質問が来ても、他の社員が答えられず対応が遅れる
  • 読み終えた後にできること:対応の手順と判断基準を一枚にまとめ、担当を分けられる
企画書1枚の構成と、書く順番(例)
  1. 読者と場面
  2. 困りごと
  3. 読み終えた後の変化
  4. 目次案
  5. 著者の根拠

社内資料の言い換えになっていないか確かめる

社内の研修資料や提案書には、自社だけで通じる用語や省略が多くあります。そのまま移すと、読者には何の話か伝わりません。専門用語を消すのではなく、初出の言葉に短い説明を添え、読者が自分の仕事に置き換えられる言い方へ直します。

社内資料の見出しをそのまま使ったら、その言葉を読者がどの場面で使うかを一行添えます。説明できない箇所は、読者像がまだ曖昧だという印です。すべてを書き切るより、どの課題を扱う本かが一目で分かる状態を目指します。

読者像を、本を買う場面まで具体的にする

読者像というと、年齢や役職、会社の規模を並べる書き方になりがちです。ただ、編集者が知りたいのは、その人がどんな場面で本を手に取るかです。属性を細かくするより、買う直前の状況を一文で描けるかどうかが、企画書の説得力を左右します。

同じ悩みを持つ人を1人に絞る

読者を「中小企業の経営者」と置くと、対象は広がりますが、書く内容はぼやけます。まずは同じ悩みを持つ一人を想定し、その人が仕事のどこで止まっているかを書きます。人数を絞るのではなく、悩みの輪郭をはっきりさせる作業だと考えると進めやすくなります。

読者が本を手に取る場面の書き方

場面は、時間、場所、直前に起きたことの三つで描くと具体的になります。頭の中の想像ではなく、読者の一日の動きをなぞるように書くと、空欄が目に見えてきます。

  • 時間:平日の業務終了後、翌日の打ち合わせの準備をしているとき
  • 場所:退社前の自席、または自宅の机
  • 直前に起きたこと:同じ質問が三人目の社員から届き、答えを毎回書いている
  • 本を探す行動:書店の実務書の棚と、検索で見つけた記事を行き来している

次は書き方を比べるための架空の例です。実在する企業や読者の話ではありません。

書く項目ぼやけた例(架空)場面まで書いた例(架空)
読者中小企業の経営者問い合わせ対応が特定の社員に集中している、従業員20人ほどの会社の経営者
困りごと業務を効率化したい休みの日に届いた質問に他の社員が答えられず、返信が翌朝まで止まる
手に取る場面本屋で見かけたとき日曜の夜、翌週の対応を考えながら、実務書の売り場と検索結果を行き来している
読み終えた後業務が楽になる質問を分類する基準を作り、誰が答えられるかを朝の打ち合わせで決められる

読者が今読んでいる本との違いを言葉にする

読者は、あなたの本が初めての一冊とは限りません。同じテーマの本をすでに読み、似た結論に触れている可能性があります。そこで、既にある本が扱っている範囲を想定し、自分の本がどこを補うのかを言葉にします。

書き方は、既存の本を否定するのではなく、足りない点を具体的に示す形が安全です。「理論は理解できたが、自社の規模でどこから手を付けるかが分からなかった」という声を起点に、手順と判断基準を置く、といった具合です。ここでも、実際に聞いた声か、想定した例かを分けて書きます。

読者像と場面、既存の本との違いが一枚に収まれば、企画書の残りの部分も書きやすくなります。目次案は、この場面で読者が抱く疑問を章ごとに置くと、内容の重複も見つけやすくなります。

目次案で、本の骨格を見せる

目次案は、本の内容の一覧ではなく、読者の疑問が順に解けていく道筋です。編集者はここで、扱う範囲と話の順番を見ます。章を並べる前に、各章が答える疑問を一文で書き出すと、構成の粗さが表に出ます。

章ごとに読者の疑問を1つ置く

一章に疑問を二つ置くと、どちらも浅くなります。見出しの下に「この章で読者は何を知りたいのか」を一文で書き、答えが節になるように組みます。疑問の形にならない見出しは、まだテーマのままで、読者の側まで降りていない印です。

  • 第1章:なぜ、質問が一人に集まるのか
  • 第2章:どんな質問が多いのか、どう見分けるか
  • 第3章:答えられる人をどう増やすか

並べたら、同じ疑問が二度出ていないか、前の章で答えた内容を後の章で説明していないかを確かめます。章は読者が疑問を解いた順に進むのが基本です。入れ替えて不自然になる章は、切り分けがずれていると考えます。

目次案の模式図(例示)。章と節で一つの答えを作り、次の疑問へつなぎます。
  1. 読者の場面
  2. 第1章の疑問
  3. 節:現状の整理
  4. 節:判断の基準
  5. 章の答え
  6. 次の章の疑問

図解・事例・手順の配分を決める

各章を何で支えるかも、目次案の段階で決めます。図解は関係を一目で示したい章、事例は判断の場面を伝えたい章、手順は読者がそのまま動きたい章に向きます。同じ手段が続くと流れをつかみにくくなります。

各章の問いと、読者が得るものの対応(架空の例)。
章章が答える疑問読者が得るもの支える要素
第1章なぜ質問が一人に集まるのか自社の状態を言葉にできる現状の整理
第2章どんな質問が多いのか分類の基準を持てる分類表と記入例
第3章誰が答えられるようにするか担当の分け方を決められる手順と基準

一枚に収まらないときは、章を増やすより、扱わない範囲を決めます。図解や表も、読者が自社に置き換えて考えるために置きます。

著者にしか書けない理由を、経歴と実例で示す

企画書の著者欄は、肩書きを並べる場所ではありません。編集者が見たいのは、この人がどんな場面でどんな判断をしてきたかです。事実として書けることと、確認してから書くことを分けて整理します。

実績と体験を混ぜずに書く

実績は数字や期間で示せる事実、体験はそのときの迷いや選んだ理由です。同じ段落に混ぜると、どこまでが裏付けのある話か分からなくなります。実績を箇条書きで先に置き、体験は「私はこう判断した」と主語を添えて続けます。

  • 実績:支援した件数、期間、担当した範囲など、社内資料で確かめられる事実
  • 体験:仕事で迷った点、選んだ理由、後から変えた判断
  • 主張:本で伝えたい考え方。事実ではなく、著者の立場として書く

数字には、いつ時点の、どの範囲の数字かを添えます。「多くの会社を支援してきた」という表現は、読み手によって受け取り方が変わります。件数を出すなら集計の期間と対象を書き、出せないときは範囲をぼかして、効果を断定しないようにします。架空の例ですが、「支援先のA社で、問い合わせ対応の手順を3か月かけて整えた」と書くと、何をしたのかが伝わります。

事例の掲載許可を先に確認する

実例は説得力を増しますが、顧客の名前、業務の内容、数字は勝手に出せません。企画書の段階では掲載の範囲が決まっていないことも多いため、書けることと確認が必要なことを分けた表を作り、提案の前に先方へ尋ねます。

書けることと、確認が必要なことの分け方(架空の例)
項目企画書に書ける例確認が必要な例
会社名・店名社名を伏せて「都内の小売業A社」と表記する実名、ロゴ、店舗写真の掲載
数字・成果公表済みの決算情報や公開事例を引用する社内だけで共有している売上、工数、効果の数値
業務の内容一般的な業務の流れを自作の例として説明する顧客固有の手順書や社内資料の転載
人物著者自身の経歴と担当した役割を書く担当者名、顔写真、インタビュー発言の引用

許可を取るときは、使う範囲、媒体、公開の時期を伝えます。返事を待つ間は実名を伏せた記述で進め、許可が出た箇所だけ差し替えれば、執筆は止まりません。断られた場合に備えて、同じ判断を伝えられる別の例を一つ用意しておくと安心です。

商業出版と自費出版で、確認する前提を分ける

編集者に最初に聞く質問

商業出版と自費出版では、企画が通る条件も、費用や流通の前提も異なります。どちらで出すかを決める前に、提案先へ確認する項目を整理しておくと、企画書の書き方もぶれません。まず聞くのは、企画を誰がどのように判断するかと、著者に求める役割です。

  • 企画の採否は誰が、どのくらいの期間で判断するか
  • 企画が通った場合、執筆期間と編集の関わり方はどうなるか
  • 著者が負担する費用の範囲と、販売や印税の扱い
  • どの販売経路に載るか、書店に並ぶまでの流れ

質問は一度にまとめて送らず、初回の相談で聞くことと、企画書を出す段階で確かめることを分けます。費用や部数、販売の条件は会社ごとに違うため、こちらで決め打ちせず、先方の説明をそのまま記録します。聞いた内容には日付と担当者を添えておくと、後で比較するときに迷いません。

一般的な違いとして整理した比較の例。実際の条件や費用は各社へ確認する。
確認項目商業出版で聞くこと(例)自費出版で聞くこと(例)
企画の採否誰がどの期間で判断するか、見送りの理由を聞けるか企画の審査があるか、著者の負担は何か
費用著者側に費用が生じる場面があるか、販売の扱いはどうか制作費の内訳と支払い時期、最低部数の条件
編集体制担当編集者が付くか、校正はどこまで含まれるか編集や校正を依頼できるか、別料金になるか
流通・販売どの販売経路に載るか、配本の条件は何か販売経路を選べるか、在庫の管理は誰が行うか

企画書の形式と提出先を確認する

同じ「企画書」でも、求められる枚数や項目、送り先は会社ごとに違います。作り込んだ様式をそのまま送る前に、指定の有無を尋ねます。指定がなければ、読者、困りごと、目次案、著者情報を一枚に収めた簡潔な形が扱いやすいでしょう。

相談から企画提出、返答までの流れ(例)
  1. 窓口と担当者を確認する
  2. 初回相談で判断基準と前提を聞く
  3. 指定の様式と枚数を確かめる
  4. 企画書を送り、受領を確認する
  5. 返答を受け、追加の質問に答える

提出後は、返答の時期と、追加で聞かれそうな点を先に用意します。目次案の根拠になる読者の声や、似た本との違いを一枚添えておくと、やり取りが短くなります。返答が来ない場合に、どの間隔で連絡してよいかも初回に確認しておきましょう。