社内案内やお知らせの下書きをAIに頼むと、返ってきた文のなかで同じ製品の呼び方が少しずつ違っていることがあります。前の段落では正式名称、次の段落では社内だけで通じる略称になり、「お客さま」と「顧客」が同じ文書に混ざり、現場では使わない強い言い切りが一つ紛れ込んでいる。一つずつ直せばその場は収まりますが、翌週に別の担当が同じ依頼を出せば、同じ直しがまた発生します。負担になっているのは手を動かす時間よりも、どの言葉を正しいとするかを毎回その場の担当者が判断していることです。

原因はAIの語彙力というより、社内で決まっている言葉がどこにも書き留められていないことにあります。そこで、名称、言い換えの可否、短い例文の3種類だけを用語集としてまとめ、指示文に添えて渡す形を考えます。何を載せて何を載せないか、指示文のどこに置くか、新しいサービスが出たときに誰がどう直すか。語彙だけでは揃わない文体や長さを、見本の文章で補う方法もあわせて整理します。

AIの文章が社内の言葉になじまない理由

AIに下書きを頼むと、返ってきた文が社内の言葉になじまないことがあります。原因を一つにまとめると直す場所が見えなくなります。ずれは語彙・表記・言い切りの三層に分けて見ます。

製品名とサービス名の呼び方が毎回違う

同じ製品が、ある段落では正式名称、別の段落では略称、別の箇所では社内だけで通じる呼び方になります。どれを正しいとするか決まっていなければ、AIはその場に合いそうな語を選びます。

正式名称・略称・社内での呼び方

三つを並べて持ち、それぞれ使ってよい場面を書きます。社外に出す文は正式名称、社内文書だけ略称、と境目を決めれば、人もAIも同じ判断を選べます。

初出で正式名称を書くかどうか

社外は初出から正式名称、社内は最初から略称でよい、という規則を明記します。決まっていなければこの規則を既定にします。空欄のままだと文ごとに扱いが変わります。

同じ意味の言葉が複数ある

「お客さま」と「顧客」、「ご案内」と「通知」のように、同じ対象を指す語が複数ある場合も多くあります。どれも間違いではないため、直す側も迷いやすくなります。

「お客さま」と「顧客」など、媒体ごとの使い分け

媒体ごとに語を変えること自体は問題ありません。問題は、対応がどこにも書かれていないことです。どの媒体でどちらを使うかを一覧にすれば、AIが混ぜる余地は減ります。

社内では使わない言い回しが混ざる

語彙が揃っても、文の強さや比喩が社内の感覚と合わないことがあります。用語の置き換えだけでは収まらない層です。

強すぎる断定

「必ず」「絶対に」といった語は、保証できない内容に付くと読み手の不信につながります。AIは依頼文の熱意に引っ張られて断定を強めることがあります。言い切れない箇所は「原則として」などに戻します。

慣れていない比喩

社内で使わない比喩は、読み手がそこで止まります。禁止語を並べるより、代わりに使う言い方を用意しておくほうが直しやすいです。

ずれの層と、用語集で扱う範囲
層よくあるばらつき用語集で扱うか扱うときの項目
語彙正式名称・略称・社内呼称の混在扱う正式名称と、使ってよい略称
表記「お客さま」と「顧客」の混在扱う媒体ごとの使い分け
言い切り「必ず」「絶対に」の多用、通じない比喩一部だけ扱う使わない言い回しと置き換え先
文体・長さ(用語集では扱わない別層)文が長い、語尾が揃わない扱わない見本の文章で補う

三層に分けると、用語集に書けるものと、書けないものが見えてきます。名称と表記は一覧にでき、言い切りの強さは使わない言い回しと置き換え先を決めて揃えます。文体や長さは見本の文章で補います。次章で載せる情報を組み立てます。

用語集に載せる3種類の情報

前章では、ずれを語彙・表記・言い切りの三層に分けました。すべてを一冊に収めようとすると項目が増え、更新が止まります。最初に載せるのは、名称、言い換えの可否、短い例文の三種類に絞ります。どれも一文で書けるため、担当が変わっても直しやすいです。

正式名称と、使ってよい略称

名称の欄には、正式名称、使ってよい略称、使わない呼び方、使ってよい場面の四点を一組で書きます。正式名称だけを書いても、現場が略称を使ってよいかは決まりません。略称だけを並べると、社外の文章でそのまま使ってしまいます。

社外に出す文章での書き方

社外に出す文章では、初出から正式名称を使い、略称は使いません。たとえば「〇〇予約」という架空のサービスなら、初出で正式名称を書き、以降も同じ表記を保ちます。社内で別の呼び方を許す場合は、許す条件まで書いておきます。

社内文書だけでの省略

社内文書だけ略称でよい場合は、その範囲を明記します。会議資料とチャットは略称可、社外に渡す可能性がある提案書は正式名称、といった具合です。省略を許す範囲が曖昧なままだと、AIは依頼の文脈から範囲を推測してしまいます。

使わない言葉と、置き換え先

使わない言葉は、単語を並べるだけでは直せません。読み手が代替を知らないまま別の語を選び、また同じ相談が起きます。禁止する語と置き換え先を必ず一組で書き、置き換えた文が不自然にならないかも例文で確かめます。

置き換え先が決まらない言葉の扱い

意味の範囲が広い語や、社内でも意見が分かれる語は、置き換え先がすぐに決まりません。その場合は空欄にせず「保留」と書き、決める担当と期限を添えます。保留の間は仮の言い換えを一つ置いておき、使った文を後から見直せるようにします。

短い例文を一つ添える

三つ目は例文です。語彙が揃っても、語尾や言い回しがばらつけば読み心地は揃いません。用語一覧の「例文」の列に、その語を使った一文を一つだけ添えます。実際に社外へ出した文章から抜くと、社内の言い回しに近づけやすいです。

語ごとの言い回しと語尾の見本

用語集の例文が担うのは、その語の言い回しと語尾を短く示すことです。例文は語ごとの言い回しと語尾を示す一文にとどめます。一文の長さや文章全体の長さ、改行は、「言葉が揃わない部分は、見本の文章で補う」の項で扱います。媒体によって常体を使うなら、その媒体用の例文を別に用意し、同じ欄に混ぜません。

三種類を一枚にまとめると、次の表のようになります。記入例は架空のサービス名を使った説明用のもので、実在の製品や社内の呼び方ではありません。

用語集の列と記入例(記入例は架空のもの)
列書く内容記入例(架空の例)
正式名称対外資料と同じ表記。変更した日も書く〇〇予約(例として挙げた架空のサービス名)
使ってよい略称略称と、使ってよい条件社外では使わない。社内は最初から可
使わない呼び方混ざりやすい呼び方と、その理由「予約システム」は対象が広いため使わない
置き換え先言い換える語。媒体名と条件、決まらない場合は保留と担当・期限社外の案内では「顧客」を「お客さま」へ。社内文書は「顧客」のままで可。判断待ちは「保留」と記入
例文その語を使った一文。語ごとの言い回しと語尾を示す〇〇予約の画面から、希望の日時を選べます。
使う場面社外・社内などの区分社外の案内と提案書は正式名称。社内の議事録は略称可

三種類に絞れば、最初の版は一枚で済みます。項目を増やすより、迷ったときに戻れる場所を一つ決めるほうが、直す判断は速くなります。次章では、この用語集を指示文のどこに置き、新しいサービスが出たときに誰がどう直すかを決めます。

AIへの渡し方と、更新の決め方

指示文のどこに置くか

依頼の内容より前に置く理由

用語集を依頼文の後ろに添えると、AIは先に読んだ依頼の言い回しのまま書き始めます。先に語の決まりを読ませると、名称の選択が本文の流れより先に決まり、後から呼び方を直す回数が減りやすくなります。

長くなったときの分け方

一枚に収まらなくなったら、どの文でも使う語と、特定の媒体だけで使う語に分けます。依頼ごとに後者だけ差し替えれば、毎回すべてを読み直さずに済みます。

更新する担当とタイミングを決める

更新日を決めるだけでは、必要になった日に直りません。きっかけを二つに絞り、それぞれ担当を決めておきます。

新しいサービスが出たとき

名称が決まった時点で、名称の欄に正式名称、使ってよい略称、使わない呼び方、使ってよい場面の四点を書き足し、例文は別項目として追加します。案内文の初稿より先に登録する順番にすると、初出から表記が揃います。

表記の相談が出たとき

この語で合っているかと聞かれたら、その場で答えず用語集へ戻します。判断を変えた場合は、変えた日と理由を同じ行に残します。次の担当が同じ相談をしなくて済みます。

用語集に載せない情報を決める

何でも載せると、社外に出せない情報が指示文に混ざります。載せないものを先に決めておきます。

顧客名・個人情報

顧客名、連絡先、契約の内容は載せません。例文も実在の顧客から取らず、架空の名前に置き換えます。

未公開の企画名

発表前の企画名やコード名も載せません。必要な場合は社内限定の別ファイルに分け、渡す相手と範囲を限ります。

用語集は、作って終わりではありません。使った後に直した内容を戻すことで、次の依頼から効いてきます。
  1. 用語集を作る(名称・言い換え・例文)
  2. 指示文の前に添えて渡す
  3. ずれた語を直す
  4. 直した内容を用語集へ戻す

言葉が揃わない部分は、見本の文章で補う

用語集で名称と表記を決めても、文の長さや段落を通した語尾の続き方、改行の位置までは揃いません。AIは依頼文や渡された資料の調子を写すため、語の一覧だけを添えると、文体はそのときの依頼文まかせになります。語彙を決めるのが用語集なら、文の形を伝えるのが見本の文章です。

見本にする文章の選び方

社外に出した文章から選ぶ

見本は、社外に公開した案内文や記事から選びます。読み手の目に触れた文章は、社内だけで通じる略し方や言い回しが残りにくいからです。媒体が複数ある場合は、これから書く文章と同じ媒体のものを一つ選びます。社外に出していない社内メモを見本にすると、社内でしか通じない言い方がそのまま写ります。

直した履歴が残っている文章を選ぶ

編集履歴や校閲の記録が残っている文章なら、どこが直されたかを確認できます。直す前と後の差分を並べると、社内が避けたい言い回しが具体的になります。履歴がない場合は、公開前と公開後の版を一組だけ残すところから始めます。

用語集と見本の役割を分ける

用語集は語を決め、見本は文の形を伝えます。同じ欄に混ぜると、語の置き換えと文の書き直しが一度に起き、どこを直したのか分からなくなります。役割を分けたうえで、それぞれが何を揃えるのかを並べます。

用語集と見本の文章が、それぞれ何を揃えるか
揃えたいもの用語集で決めること見本の文章で伝えること
製品名・サービス名正式名称と、使ってよい略称を決める社外の文章では、初出から正式名称を書き、以降も同じ表記を保つ流れを実物で示す
言い換え使わない語と、置き換え先を書く置き換えた文が不自然でないかを、実際の一文で示す
文の長さ扱わない一文が四十字前後で収まっている例を、そのまま見せる
語尾と調子その語を使った例文を一つ添える段落を通した語尾の続き方を示す
改行と見出し扱わない段落の分け方、見出しの付け方、箇条書きの使い方を示す

見本は同じ媒体で一つ、多くても二つまでにします。数が増えると、どちらを写すかが場当たりになります。用語集が語を決め、見本が文の形を決めます。この二つを指示文に添えることで、直す回数を減らす狙いがあります。