たとえば、架空の店舗で、AI研修のアンケートには好意的な感想が集まったのに、翌週の問い合わせ返信には使われていないとします。社員はサンプル文章を要約できても、商品Aの価格や返品条件への返信をどう作ればよいか分かりません。

研修で習った操作を実際の仕事でどう使うか考える担当者。

この説明例で、追加の講座を探す前に確かめたいのは、問い合わせを受けてから返信を送るまでの、どこで困っているかです。AIを操作する練習だけでなく、仕事に使う材料と、返信を確認する人まで決まっているかを見ます。

研修課題を翌週の仕事へつなぐ
  1. 1
    課題を決める商品Aの価格と返品条件への返信
  2. 2
    下書きを作り、根拠を示す公開済みの商品説明を使う
  3. 3
    人が内容を確認する価格と、判断が必要な例外を確認
  4. 4
    翌週に見つかった問題を手順に反映する操作練習・資料・確認手順を直す
架空店舗の設計例です。研修後の改善実績を示すものではありません。

架空店舗の研修を設計する説明図です。翌週に見つかった問題を練習や手順へ反映する案を示しており、改善実績ではありません。

受講後に使われない仕事の条件を確認する

「研修は受けたのに使っていない」と分かったら、社員が仕事のどこで止まるかを確かめます。返信案を作れない場合と、作れた案を確かめられない場合では、必要な対応が違います。

問い合わせ返信で止まる場面 先に確かめること 対応の例
AIに材料を渡せない 材料の渡し方を練習したか 同じ操作を追加で練習する
要約はできても返信に使えない 問い合わせへの返信を課題にしたか 商品Aの問い合わせを練習する
案はあるが価格や例外を確認できない 根拠と確認担当が決まっているか 商品説明と担当者を決める

架空店舗の仕事を使った説明例です。実際の調査結果や導入実績ではありません。

サンプル課題を自社の仕事に置き換えられるか

この店舗では、社員全員がサンプル文章を要約する講座を受け、会社は受講済みの人数を記録したとします。しかし商品Aの価格と返品条件を聞かれたとき、何をAIへ渡して、どんな返信案を作るかは練習していません。

要約の操作を覚えていても、商品の問い合わせに答えるための材料や確認手順は別に必要です。使われない理由を探すなら、受講の有無に加え、「この問い合わせで、社員は何ができる状態か」を見ます。

研修提供会社のインターネット・アカデミーも、学習内容を自分の仕事へ当てはめられないという相談を紹介しています。これは同社に寄せられた相談の整理であり、全国の企業の失敗率を調べた結果ではありません。同社の相談傾向をまとめた記事

操作の問題と会社の判断を分ける

商品説明をAIへ渡す方法が分からなければ、操作を練習する余地があります。渡すべき商品説明が見つからなければ、店舗側で参照する資料を決める必要があります。

返品の例外を認めてよいかは、店舗としての判断です。講師に操作を教わっても、その判断をする店長が決まっていなければ、返信は止まります。

社員が「分からない」と言ったときは、分からなかった操作、探していた資料、確認待ちになった内容を具体的に聞き取ります。追加研修の要否は、その内容を見てから判断できます。

発注時に練習する仕事と確認条件を決める

研修の提案を読むときは、講座名に加えて「受講後、どの仕事をどこまで進められるか」を確認します。架空店舗なら、次のように問い合わせ返信を発注条件へ具体化できます。

発注前に決める項目 店舗の指定例 提案で確認すること
練習する仕事 商品Aの価格と返品条件への返信 この問い合わせを課題にできるか
使う材料 店舗の公開済み商品説明 持ち込みや教材化の条件は何か
到達点 返信案と、確認が必要な箇所を示す 根拠を確かめる練習もあるか
受講者の経験 初めて使う人と経験者がいる 経験に合わせて課題を変えられるか
受講後の質問 操作は研修会社、例外判断は店長へ 相談の範囲と期間は何か

実際に使う問い合わせを課題にする

Ethan Mollickは、会社で使うAIを判断するには、自社の仕事を想定して繰り返し試し、その仕事を評価できる専門家が結果を確かめる必要があると述べています。研修効果の研究ではありませんが、仕事に合うかを確かめる際の参考になる考え方です。Mollickの発信

この店舗の課題には、公開済みの商品説明から返信案を作り、価格の根拠を示すところまでを含めます。実際の顧客情報を使わなくても、価格と返品条件を尋ねる説明用の問い合わせで、必要な作業を練習できます。

受講者の経験に合わせて到達点を決める

初めてAIを使う人には、商品説明の渡し方と指示の出し方から練習する課題を用意します。すでに案を作れる人には、根拠との照合や、足りない情報を見つける練習に重点を置けます。

前章で紹介した研修提供会社も、社員の経験差を相談上の課題に挙げています。全員に同じ講座を受けさせた後でも、同じ仕事を進められるとは限らないため、発注前に受講者の経験を伝えます。

研修後の相談条件を発注内容に入れる

操作で迷ったときに研修会社へ質問できるかは、提案や契約で確認します。相談が付くと決めつけず、受け付ける内容と期間を確かめておけば、受講後の質問先を社員へ案内できます。

店舗の価格や返品の例外を決める相談先は店長とします。講座への質問と業務の判断を分け、研修会社の対応範囲から外れる仕事を誰が引き受けるかも、発注時に決めておきます。

研修中に返信案を確かめる練習をする

商品Aの価格と返品条件を聞かれ、AIで返信の下書きができたとします。研修ではここで終えず、受講者が商品説明を開き、書かれた内容を確かめるところまで扱います。

返信案を資料と照合し、例外は店長へ確認する
  1. 1
    返信案を開く価格と返品条件を読み取る
  2. 2
    根拠のある内容商品説明と照合する
  3. 3
    根拠のない例外返品を認めるか店長へ確認する
  4. 4
    返事を仕上げる判断が済んだ内容を反映する
商品説明で確かめられない返品の例外は、店長の判断を確認してから返信に反映します。

返信案の内容を材料と照合し、判断根拠がない例外は店長へ確認する、架空店舗の練習手順です。

返信案の根拠を商品説明と照合する

読みやすい文章になっていても、質問に答えているか、材料にない説明を加えていないかは別に確かめる必要があります。受講者は、返信案のどの部分を何と照合したかまで示します。

返信案で扱う内容 受講者の確認 店舗側へ戻す条件
商品Aの説明 公開済み商品説明と照合する 材料にない説明がある
商品Aの価格 掲載されている価格と比べる 価格の根拠を確かめられない
返品や例外対応 判断の根拠が材料にあるか見る 根拠がなければ店長に確認する

練習を確認する側は、出来上がった文章と参照した商品説明を一緒に見ます。価格が正しくても、返品の質問に答えないままになっていれば、送るための返信は完成していません。

根拠がない例外対応を担当者へ戻す

商品説明に返品条件が見当たらないときは、AIへ文章を作り直させる前に、足りない情報を特定します。「返品を認められるかは店長の確認が必要」と分かれば、受講者は未確認の部分を残したまま、判断を依頼できます。

2023年にハーバード・ビジネス・スクールの研究機関が紹介した研究は、758人のコンサルタントが文章などを生成するAIのGPT-4を使った特定の作業を扱い、AIが得意な作業と不得意な作業で成果が異なることを示しました。研修の効果を測った研究ではなく、当時のGPT-4と特定の作業で得た結果を現在のAI全般へ当てはめることもできません。研究紹介

この研究から、店舗の返信業務で効果が出るとは言えません。研修課題では「案が出た」という事実に加え、商品説明に基づいて答えられた部分と、人に聞かなければ決められない部分を確かめます。

講師が操作を確認する際にも、店舗の判断が必要な箇所は店舗側の担当者に評価してもらいます。操作が正しいだけで、返信内容の正しさまで確かめたことにはなりません。

受講後の確認と修正を含めて次の対応を選ぶ

翌週に店長が確かめるのは、受講した人数だけではありません。同じ問い合わせで、案を作り、内容を確認し、送れる返信に直すまでの作業を見ます。

商品説明と下書きを同僚と照合する担当者。

日常のどこで使うかと相談先を決める

この店舗では、商品Aの問い合わせを受けた担当者が返信案を作り、価格と例外対応を確かめたうえで送る手順にします。店長は研修中の課題をもとに、日常の担当者が読んで使える手順へ直します。

操作で困った担当者には、契約で定めた相談内容に応じて、研修会社の問い合わせ先を案内します。返品の例外を認めてよいかは店長へ確認し、質問の種類で相談先を分けます。

作成時間に確認と修正の負担を加える

AIを使う前後で、同じ種類の問い合わせへの返信作業を比べます。案の作成に加え、商品説明を探して確認する時間と、間違いや不足を直す時間も見れば、下書きが早くできた後の負担を確かめられます。

内容の正確さは、商品の説明や店舗の判断が分かる担当者が確かめます。返信を短時間で作れたとしても、必要な質問への回答が欠けていれば、そのまま使えるとは判断できません。

研修提供会社の発信でも、使ったか、業務にどう影響したか、事業にどう影響したかを分けて捉えています。この店舗でも、小さな試行で返信を作れたことから、売上や顧客満足まで改善したとは結論づけません。研修後の評価を扱う記事

問題に合わせて追加研修か手順変更かを選ぶ

次の表は、翌週に問題が見つかったと仮定した説明例です。改善が起きたという実測結果ではありません。

見つかった問題の例 判断に使う材料 次の対応の例
毎回、材料の渡し方でつまずく 案を作る作業の記録 同じ問い合わせで操作を練習する
価格の根拠を探し直している 確認作業と商品説明 商品説明の参照先を返信手順に入れる
例外の判断待ちで止まる 店長への相談内容 相談先と判断する担当者を整える
確認や修正が重く、正確な返信にしにくい 作成から修正までの作業と返信 AIに任せる内容を絞るか使用を見直す

一部の問題を直して使い続ける場合も、見直した後に同じ種類の問い合わせで確かめます。追加練習をしたことや手順を配ったことだけで対応を終えず、返信を完成させるまでの負担と内容で判断します。

追加研修を検討しているなら、発注先には「社員が使わない」という印象だけでなく、具体的にどの仕事で止まったかも伝えます。操作が分からないのか、練習した課題と仕事が違うのか、会社として決める事項が残っているのかで、依頼する内容は変わります。

株式会社ありがとうでは、AI導入にあたり、対象の仕事と資料を確認し、AIに任せる部分と人が確認する部分、担当者が使う手順を整理しています。支援する範囲は、仕事や扱う情報に応じて相談して決めます。AI導入支援・業務ツール開発

研修を受けた後に仕事で使えるかを確かめるには、1つの仕事を、材料を渡すところから人が確認して仕上げるところまで見る必要があります。そこで分かった不足が、次に学ぶ内容と、会社で整える手順を決める材料になります。